脂質(あぶら)

2015年08月30日

 私達人類は雑食で何でも食べるので「種」の間の熾烈な競争を生き抜いて進化して来ました。私達の祖先は、急性毒性のある食べ物を食べて死んだり、苦しんだりしました。命を賭けた経験の無数の積み重ねのうえで現在の食生活があります。脂質、糖質、塩はたんぱく質とともに私達の生命を維持する上で欠かせない成分でありますが、何でも摂りすぎますと健康を損ないます。

 1960年代までは、日本人の食事には脂肪分が少なく、日本人が摂取していた脂肪分は1日20.3g、少なかったのは動物性の脂肪で1日2.9gしか摂取していませんでした。1975年頃には動物性脂質を1日20.9g、魚の脂質を1日6g、植物性脂質を1日28.3g、合せて脂質を1日55.2g摂るようになり、その水準が今日まで続いております。1日のエネルギー必要量とPFCバランス(たんぱく質、脂質、糖質の3大栄養素のバランス)から、男性の1日の脂質の摂食量は60g、女性のそれは45gが望ましいと計算されております。

 脂質は脂肪(Fat)とか脂(あぶら)ともいい、モノグリセリド(グリセリン)と脂肪酸のエステルで、脂肪酸の種類によって色々な種類があります。炭素の二重結合を含まない脂肪酸を飽和脂肪酸と呼び飽和脂肪酸の多い固体のものを脂、炭素の二重結合を含む不飽和脂肪酸の多い液体のものを油と区別します。大豆油などの植物油の二重結合の炭素に水素を添加すると固体のマーガリンやショートニング等が出来ます。この反応時に心臓疾患のリスクを高めるトランス脂肪酸が生じるので、マーガリン、ショートニングを使用しているパン、ドーナツ、洋菓子、スナック菓子に使用を規制する国が増えています。油が古くなると脂質が酸化されて油焼け臭のする有害な過酸化物質が生じます。外食や中食(調理食品を買うこと)の際には気をつけましょう。適量の過酸化物質の摂食には習慣性があり、江戸前の天婦羅が恋しくなるのはその為だとの説があります。また古くからの圧縮搾油法ではなく、溶媒を用いる最新の抽出方法では有害物質が残るとの警告もあります。脂質に関する沢山の健康情報の中から正しい情報を見極めたいものです。

 ココナッツ油はアルツハイマーを予防する、オレイン酸を多く含むオリーブ油はダイエットに効く、青魚に多く含まれるDHA、EPAは動脈硬化を防ぐなどの健康情報が溢れております。結果が相反する研究もありますのでよく調べないで鵜呑みにしてはいけません。動物試験等で問題の出ていないバター、ラードなどの動物性脂質、植物性ならアマ二油やエゴマ油を勧める学者がおります。摂食してもやせる油などは絶対になく、むしろ脂質を摂りすぎて肥満にならないよう要注意です。逆に高齢者が牛肉,豚肉の脂や乳製品を制限すると,低栄養になり抵抗力が落ち感染症に罹り易くなったり、体力が落ちて寝たきりになる可能性が高まると警告されています。

 脂質の品質が食品の美味しさを大きく左右します。美味しいパン(特にクロワッサン)やスイーツには良質のバター、乳製品が使われております。バターを熱して溶かし小麦を加えて作る西洋料理の基本となるルー(Roux)はバターの品質がその旨さを決めます。大量生産されているカレールー等では,バターの代わりにショートニングが使用されていますが、分溜して融点を調整して口溶けのよいショートニングを巧みに使いますと格段に美味しくなります。お料理の仕上げに良質のオリーブオイルや胡麻油などを数滴加えると旨味が数段あがります。少し値が張っても良質な脂質を使って,美味しい食事を楽しみましょう。

食と健康のコンサルタント 渡邉 憲一